twitter:@eleven_face
ネコだいすき。140字の箱の中で、黒ねこのミロさんや、ミロさんの家族、ふしぎな姫王子のネコネコと、おしゃまな麗猫、れねれねのお話を書いています。ほかにも変わった人たちのお話があるけど、こっちは少しずつ。時々イベント出店しているので、見かけたら遊びに来てくださいね☆
《ミロさんシリーズ》
1
ミロさんは赤ん坊の頃に拾われて、親の顔を知らずに育った。おとうさんはこの界隈のボスだったけれど、ミロさんは知らない。父親ゆずりの黒い毛皮に金の瞳、鍵のしっぽがそのしるしだ。ミロさんは私に連れられ、きつねの襟巻きの中で眠った。大丈夫。今日からはおなじ家の子だ。それが夏休みの少し前。
2
私たちはおなじ家の子として育つが、こと木登りはミロさんの方がだんぜん上手い。はじめに階段の登り下りを私が教えた。よつんばいで下りる時にはどうしようもなく恐かったけれど思い切ってやってみせたら、ミロさんは1度ですっかり覚えてしまった。ぴょこぴょこと練習をして、うれしそうに声をあげた。
3
喧嘩もした。ミロさんは加減を知らずほんの遊びが夢中になって私の腕をきつく噛む。子供の私の腕と脚はいつも流血の刃傷沙汰だ。ミロさんの歯はどんどん鍛えられて強くなる。ある日私の中の何かがキレた。毛むくじゃらの四肢をめがけてがぶりといってやったのだ。ミロさんはきゃあと叫んで飛び跳ねた。
4
真っ黒だけれどお腹のあたりのほんの一部が牛乳みたいに白いミロさん。いつの間にか寝泊まりに使った大きな海苔の缶を飛び出して、私たちと一緒に眠るようになった。夏の盛り、新潟の海へ出かけた頃には缶の中で泣きながらよろよろと仁王立ち、懸命に爪を掻き立ててミルクを欲しがる赤ん坊だったのに。
5
小林さんのおばちゃんが薄茶のシマシマを着たおとなしそうな男の子を連れて来た。「太郎ちゃんて言うのよ。」私が半ば無理やり抱えてきたミロさんを男の子のそばに下ろすと、二人はすぐに柔らかな挨拶をした。「ちょうどいいかしらね。」ミロさんがうちに来て半年。よく晴れた寒い日のお見合いだった。
6
冬の凍てつくある晩のこと。町のみんなが寝静まった夜深く、聞いたこともないような激しい一騎打ちの雄叫びが長く低く響き渡った。おかしいな。この町は昔からミロさんのお父さんのもの。黒い毛皮の一族のもの。いつもならお父さんの一喝で誰もがスゴスゴと町を去っていく筈なのに。いやな予感がする。
《第二十三回文学フリマ東京 フリーペーパー》
福生の白犬
少しねむい。レコード針が奥まで進んでポツポツした後、また最初の場所に置かれて揺れてる。スキンヘッドのご主人は武器マニアだからいきなりドアを開けちゃいけない。ナイフがびーんんんと弾けて遊びに来た友達って奴が床に崩れこんでたじゃん。彼女がご飯を運んで来たからそれからあとは覚えてないや。
《140字名刺》
創作お芝居
「長生きしているのかな。音楽は。言葉よりもずっと長いんじゃないかな。」煙を吐きながら彼がつぶやく。窓からは街の喧騒。僕らはこれから芝居の稽古に行くんだよ。君がそんな事を言うとなんだかとても恐くなってしまう。音使いの僕にはいつか音楽が言葉をたべてしまうんじゃないかと、そう聞こえた。
箱の中でことばの光がぽっぽぽっぽと飛び交っている。つなぎ目は分厚かったり、足りなかったりして少しずつ熱を持ち、やがてすーーーっと離れていった。なんだ、本当はココを暖めたかっただけなんじゃないの。ぼくも飛び込んでこすってみた。くすぐったい感触が伝わって、ひかりが小さく流れていった☆
《未収録》
先生と大草紙
ここにおいでと待っててくれるの。行きたいよ。私も一緒に笑いたいの。けど、活字はときどき逆流するし大切な事は書いてなくって声にならない。心細くて最初にみえた扉を開けたらさあ大変だ。気持ちよーく逆方向へ飛ばされちゃった。遠くに揺れるみんなを見てる。ああ、また迷子。ごめんね、せんせい。
《最初の作品集》
言葉の兵隊
美しい郵便屋さんはどんな時でも心と言葉をきちんと正しく届けたい。そう話してくれていた。伝えたい心を言葉にのせる。世界に溢れる言葉たちは心を正しくのせてくれているのかな。心と合わない言葉の欠片は足元にふわふわ積もっていって、やがては言葉の兵隊になる。誰も信じないかもしれないけれど。
よこまち
始まりはいつもお教室で、あなたは憧れの美少女だったね。鈴を鳴らしたような声のアヴェ・マリア、鮮やかな色彩の衣装、歌いながら走った門限や可愛らしい暴言…。追いかけても届かない姿をまぶしく見ていた。お別れは突然すぎて、悲しすぎて、私たちはまだ誰ひとりあなたにさよならを言えないでいる。